僕がメガバンクの銀行でリストラを担当した時の話

銀行に入行して3年目の頃。
支社(僕の銀行でいう、法人を相手にする部署)に上がって、1年半が経とうとしていた。
もうずいぶん、銀行の法人営業にも慣れてきた頃だ。
- 法人営業:企業を相手に営業をする部署。お金を貸す融資だけでなく、決済や外国為替、事業相談やビジネスマッチングなど、職務は多岐にわたる。
ある日、僕は支社のトップである、支社長に呼ばれた。
「亮平君、突然で悪いんだけど、リストラ担当をやってもらう事にするよ」
その日から僕は、激務の日々が始まり、
そして銀行のもう一つの大切な役割を知る事になった。
1.メガバンク(銀行)のリストラ担当とは?

リストラと聞くと、あなたは決して良いイメージを持たないと思う。
僕もそうだった。
会社をクビになった人が、「いきなり肩たたきされて、リストラされたよ…」とひどく落ち込む姿も想像出来るだろう。
ただ、そのイメージと銀行のリストラ担当の役割は、大きく違ってくる。
そもそも従業員をクビにするのは、企業にとって本当に最後の手段。
家族のように一緒に過ごしてきた社員を辞めさせることなど、めったに無い。
リストラの語源は、「リストラクチャリング(再構築)」から来ている。
再構築という言葉通り、企業が環境の変化に伴い社内事業等を見直して、『再び生まれ変わる』という意味である。
リストラ担当は基本的に、赤字が出たりして事業があまりうまくいっていない会社を担当する。
「銀行員になった僕が初めてお金を貸した時の話」で紹介した『格付』という言葉を使うなら、まさしく格付が悪い会社の担当だ。
つまりリストラ担当は、格付けの悪い会社のサポートをするのである。
率直に言って、このリストラという仕事には、本当にやりがいを感じた。
実際にリストラ担当をしていちばん衝撃を受けたのは、業績に悩む会社とリストラ担当は、時には非常に強い信頼関係で結ばれる事だ。
なぜか。
業績に悩む会社は、単純に僕たち銀行員を、強く頼ってくれるからである。
理由はシンプルで、お金が無い会社にとって、銀行からの融資はとてもありがたく、会社を続けていくために無くてはならないものだからだ。
時には、銀行から借りているお金の返済が厳しくなり、銀行にリスケジュール(返済を延期したり、月々の返済を減らしたりすること)を依頼しないといけない会社も出てくる。
そうなると相当、その会社は切羽詰まっている状況だ。
なので、リストラで担当した会社の社長は、20前半の新米行員の僕としっかりと向き合い、真剣な想いを伝えてくれていた。

今は業績が難しいが、今後はこうやって売上を回復させて行こうと思っています。なので、今後もどうぞよろしくお願いします
ある企業の社長さんからは、そんな言葉を言われたこともあった。
僕は、そんなリストラという仕事に、銀行員としての誇りを感じた。
それまで担当していた会社は、どこも業績が良く、お金が余っているところばかりで、あまり僕たち銀行員を求めてくれることも少なかった。
でもリストラは違った。
お客さんが自分たちを頼ってくれる。
それが単純に嬉しかった。
尊敬できる上司との出会いもあり、強いモチベーションと共に、僕はがむしゃらにリストラ担当として働いた。
ただ、予想外だった事が一つ。
リストラ担当は、当時の僕には到底太刀打ちできない、精神を削るあまりに過酷な業務だった。
2.メガバンク(銀行)のリストラ担当のやりがいと責任

リストラ担当となると、会社からいきなり重大な電話が来る。

取引先への月末の支払いがこのままだと難しくて。なんとかお金を借りられないでしょうか
そんなあまりに重大な話が、電話で突然やってくるのだ。
取引先への支払いが出来ないと、企業の存続にも関わってくる。
僕は、すぐになんとかしなくてはと思い、飛ぶようにその会社へ向かい、話を聞いて銀行の支社に持ち帰り、上に相談をする。
ただ、非常に難しいのが、リストラ先として担当している会社へは、すぐに融資ができない事。
改めて企業の資金繰りや業績を精査し、石橋を十分にたたくレベルの検討をしないと、融資は行えない。
銀行としても返済の見込みがないお金は貸せないからだ。
案の定、支社の中ではずいぶん揉める話となった。
自分でも驚くくらい、この件について雲行きも非常に怪しくなってきた。
本当にうちの銀行は融資をしないのか、そんなどうしようもない不安さえ抱くようになった。
トップの反応は決して良くなかった。
たしかに、客観的に見ると、事業的にも融資がきちんと返ってくると言う立証が難しかったからだ。
ただ、僕は担当者として、なんとかしたいと思い動き続けた。
何度も何度もお客さんのもとへ行き、業績が回復する説明を受け、資料を貰ってくる。
その会社は、何十年も続く老舗企業だった。
社長はもう60歳過ぎのおじいさんだ。

なんとかならないでしょうか…なんとか…
右肩下がりの業績。
今後、売上が上がる決定的な話も無い。
ほとんど、すがるような懇願だった。
期待に応えたいとは思うが、当時の僕ではほとんど歯が立たないほど、難しい問題だった。
この融資の話は、本当にこじれにこじれ、僕は疲弊しきっていた。
タイムリミットまでの砂時計が刻一刻と落ちていくように。
日々の業務のほとんどを、その会社だけに費やしていた。
僕はただただ、なんとかしたかった。
目の前の、自分の担当している会社を、困らせたくなかった。
銀行員としての責任と役割を、この時ほど噛みしめたことは無かった…。
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迎えた月末。
融資は、もう本当にギリギリの直前に、なんとか実行された。
融資の直後にその会社へ行った上司から、僕は忘れられない話を聞いた。
「あの会社の社長さん、泣いてたよ。もうだめかと思ったってさ」
おじいさんのように映っていた社長が、泣いていた…。
泣いた理由はたぶん、ほっとした安堵と、言葉にできない恐怖だったんだと思う。
その話を聞いて、僕はなにも言葉が出なかった。
―本当に良かった。
あまりにも大きな疲労と、達成感が入り混じっていた。
リストラ担当は、きっと銀行員としていちばんやりがいと責任がある仕事だ。
僕は、銀行の最も大切な役割が何かを知る事ができた。
銀行は決して主役にはならない。
お金に困っている誰かを支えるのが、銀行の役目だ。
そしてちょうどその時、転勤の辞令があり僕は東京へ戻る事になった。
僕の銀行員人生での最後のステージは、銀行の根幹、すなわち本部だった。
▼この記事は僕の銀行員時代の第四話です。続きは以下よりどうぞ(全六話)▼
>>第五話:僕が丸の内の銀行本部で、本気で退職を考え出した頃の話