僕が丸の内の銀行本部で、本気で退職を考え出した頃の話
2015年の10月。
僕は、約2年半勤めた地方の支店(支社)を離れ、東京の本部に異動をした。
サラリーマンなら誰もが憧れるであろう、丸の内勤務だ。
東京駅から徒歩1分ほどで、駅を見下ろせる超高層ビルの21階が新しい職場となった。
今回は、僕は本部に配属となり、退職を考えるようになっていった話をしようと思う。
1.銀行本部の中身と、僕の配属先となった商品所管部とは?
銀行の本部は、数え切れないほど様々な部署がある。
支店は法人、個人と言う2つの区切りで大抵分かれているのだが、本部はもっと多種多様だ。
人事部や財務部、外国為替やディーラー、はたまたシステム関係と言った本当に多くの部が存在する。
自分はと言うと、変わらず法人営業に関わる部署に就くこととなった。
本部の法人営業とはどういうイメージか?
これはとてもシンプルで、お客さんのほとんどが東証一部上場企業のような、非常に大きな会社である。
国内を代表するようなトップ規模の会社を、本部に集約して、「営業本部」と言う部署が法人営業の担当をする。
自分はその、営業本部をサポートする部署に配属となった。
支店から本部への配属となったことは、周りにはずいぶんお祝いの言葉を貰えた。
エリートコースだと褒めて貰えることもあった。
ただ、僕の心情は複雑だった。
内心は、次の職場でも支店で中小企業への法人営業がしたいと思っていたからである。
本部勤務となると、今度は大企業がお客さんになることは分かっていた。
一般的には、大きな企業を相手に営業が出来ることほど、銀行員としては誇らしいし、行内ではステータスがあることだった。
融資する金額も桁違いに大きくなるので、それだけ銀行の収益額も大きい。
銀行での法人営業において花形部署と言えるのが、営業本部であり、それをサポートする僕の部署も周りからは出世コースと見られるところだった。
―それでも、自分は今までの中小企業の営業が良かった。
大企業が相手ともなると、もう向こうの窓口は社内の財務部の人間であり、単なるサラリーマンだと聞いていた。
一方で、若造の自分でも直接、社長さんたちと話せる中小企業は自分にとって魅力的であり、モチベーションが湧くものだった。
そして、中小企業のリストラにもずいぶん惹かれていたので、そのままの路線を進みたかった気持ちもあった。
では、何故自分は本部へ行くことになったのか。
詳しいことはもちろん分からないが、理由の一つとしては異動前にあった人事部との面談が考えられた。
初めての異動の前には、人事部との面談が恒例行事としてあった。
そしてその面談で、次の異動先や今後のキャリアなどの希望を聞かれる。
僕は人事面談で「中小企業の担当がしたい」と言ったが、結局ふたをあけると本部配属だった。
これは、割とよくある人事部の狙いらしい。
若手のうちに希望と反対の部署に配属させ、いろんな経験をさせておくという人事部の意図はよく聞く話だった。
ともかく、僕は地方の中小企業の営業から一転し、東京のど真ん中の丸の内で、上場レベルの大企業相手に営業に関わることとなった。
とはいっても、右も左も分からない。
中小企業を担当していた頃の、今までの知識はほとんど役に立たなかった。
僕が配属になったのは、商品所管部という、お客さんに融資する際のいろんな商品を管理する部署だ。
「融資をする際のいろんな商品」と言うと、初めて聞く人は何のことだかと思うだろうが、要するに企業がお金を借りる際にはいろんな形があるということだ。
株式や社債と言う言葉は、あなたも聞いたことがあるだろう。
あれも、企業がお金を借りてくる際の「商品」の一つだ。
この商品の話はややこしいのだが、ざっくり説明するとしたら、バナナが欲しい人に、フィリピン産かエクアドル産か、あるいは国産の商品を渡すかの違いだと思って貰えればと思う。
色んなバナナがあっても、バナナには違いない。
それと同じで、銀行には色んな形のお金を貸す商品があるが、結局は企業に融資することに変わりはない、と言うイメージである。
2.僕が本部の中で少しずつ退職を考えるようになっていったワケ
僕は商品所管部の中で、社債を管理する部署に配属となったので、しばらくは社債と言う商品の勉強をひたすらすることになった。
同時に、社債に関する内部事務も日々行っていく。
このあたりは割と平穏な日々であり、どちらかと言うと丸の内で働いてること自体にキラキラしている自分もいた。
仕事が終わったら銀座に飲みに行ったりしたものだ。
内部での仕事を半年ほど行った後、いよいよ自分も本部で実際に営業をすることとなった。
少し分かりづらい話だが、この商品所管部は、自分に直接お客さんの担当がついているわけではない。
あくまで、本部において法人のお客さんを担当しているのは、先述した営業本部だ。
商品所管部は、その営業本部と一緒にお客さんのところへ行き、自分の部署の商品を使ってお客さんにお金を借りることを提案する。
肝心の営業本部の説明を少しすると、一部から十何部くらいまで分かれており、お客さんの業種によって綺麗に纏められている。
金融系の会社なら一部、商社系なら三部など。
ぼくは、そのいくつかの営業本部の担当となった。
そして、その営業本部のお客さんが、自分にとってのお客さんとなるイメージだ。
この商品所管部での営業は、一言で言ってあまり楽しいものでは無かった。
予想していた通り、大企業相手となると向こうの窓口は財務部のサラリーマンであり、ほとんど形式的な話にしかならない。
支店の頃の、中小企業の社長との濃い繋がりのようなものは一切生まれる気はしなかった。
そして、リストラをやっていた頃は、お客さんから銀行を求めてくれる環境にあったが、今度の大企業は全くの逆だった。
上場企業ともなると、どこもお金がじゃぶじゃぶに余っており、特にお金を借りようとはしない。
そしてお金が必要となっても、わざわざ銀行から借りなくても他に貸してもらえるところもあるのである。
本部での営業に触れた僕は、この仕事がお客さんからそこまで必要とされていないような気がした。
そして一番大変だったのは、営業としてお金を貸さないといけない事だった。
お金を借りようとしないお客さんに、銀行はどんな手段に出ていくか。
簡単に言うと、ありとあらゆる手でお金を貸そうとする。
銀行の役員クラスの上層部を使って融資の話を持って行ったり、将来的に必要となるであろうお金を、今のうちに前倒しで貸してしまったりだ。
そして同時に僕が完全に嫌気がさしたのは、銀行内での部署間の争いだった。
先に話した通り、お客さんにお金を貸す商品はいろいろあり、それだけいろんな部署がある。
商品所管部からすると、自分の部署の商品を使ってもらわないといけないので、お客さんに貸すことで手に入る収益(銀行の儲け)を、銀行内で取り合うことになるのだ。
その光景を目の当たりにし、僕はずいぶん冷めて行った。
銀行内で争ってどうするんだ。
結局は銀行の儲けになるんだから、良いじゃないか。
内部での争いに勝つ為の仕事に、意味はあるのか。
一体、誰のために仕事をしているのか…よくわからなくなっていった。
……。
もしかしたら、僕にこの会社は、合ってないのかもしれない。
そして…僕は退職を決意した。
▼この記事は僕の銀行員時代の第五話です。続きは以下よりどうぞ(全六話)▼
>>最終話:僕が3年9か月勤めた三菱東京UFJ銀行を辞めるまで